外科医は本当に減っている?|減っていたのは「外科」全体ではなく、消化器・一般外科だった
外科医が減っている。
実際、外科医として現場で働く中でも、同じように実感しています。
ここ数年、変わらないチームの顔ぶれ。見学に来る先生も、年々少なくなっているように感じます。
ニュースを見れば、外科医不足や医師不足の話は目にします。ただ、現場が感じている危機感と、メディアの温度感には、少し違いがあるようにも思います。
もしかしたら、これはうちのチームだけの問題なのか。周りの施設の実際はどうなのか。
そこが気になって、厚生労働省の資料を開いてみました。
調べてみると、うちだけの話ではありませんでした。ただ、減っているのは外科全体ではなく、その中の一部でした。
この記事は、「外科医不足」という話を聞いて実際の数字を確かめたい人と、同じように現場で「人が増えた感じがしない」と感じている人に向けて書いています。
結論|減っているのは消化器・一般外科だけ
外科系の中で減っているのは、消化器・一般外科です。
呼吸器外科も心臓血管外科も減っていません。
数字を3つ並べます。
| 数字 | |
|---|---|
| 新しく外科の研修を始めた医師(2026年) | 996人。9年間でいちばん多い |
| 消化器・一般外科の医師数 | 2020年 19,025人 → 2024年 17,905人(4年で1,120人減) |
| 同じ期間の医師全体 | 323,700人 → 331,092人(7,392人増) |
医師全体が増えている中で、消化器・一般外科だけが減っています。
うちのチームだけの問題ではありませんでした。僕が現場で感じていた「人が増えない」は、全国の数字にも出ています。
一方で、新しく外科を選ぶ医師は増えています。ただ、その増え方は現場で気づける規模ではありませんでした。
メディアと現場で温度が違って見えるのは、たぶんここです。
出典:厚生労働省「令和8年度の専攻医採用と令和9年度の専攻医募集について」、厚生労働省「令和2(2020)年・令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」(2026年9月7日・9月10日確認)
そもそも「外科」は1つではありません
厚生労働省の統計では、外科は10近い区分に分かれています。
医師は2年に1度、自分が主に担当している診療科を届け出ます。
その区分には、次のようなものがあります。
- 外科
- 消化器外科(胃腸外科)
- 呼吸器外科
- 心臓血管外科
- 乳腺外科
- 小児外科
- 肛門外科
- 気管食道外科
「外科医が◯人」という数字は、これらをどこまで足すかで変わります。
全部足せば約26,900人。「外科」と「消化器外科」だけなら約17,900人です(いずれも2024年)。
この記事で「消化器・一般外科」と呼ぶのは、後者のことです。
お腹の手術と、救急で運ばれてくる腹膜炎や腸閉塞に対応している領域です。
もう1つ、区別が必要な言葉があります。「専攻医」です。
臨床研修(2年間)を終えた医師が、専門を決めて研修を始めたときに、その領域の専攻医になります。
毎年、新しく何人が入ってきたかを数えた数字です。いま働いている人数とは別ものです。
新しく外科を選ぶ医師は、増えている
外科の専攻医採用数は、2026年が9年間で最多でした。
| 採用年 | 人数 |
|---|---|
| 2018年 | 805 |
| 2019年 | 826 |
| 2020年 | 829 |
| 2021年 | 904 |
| 2022年 | 846 |
| 2023年 | 835 |
| 2024年 | 807 |
| 2025年 | 863 |
| 2026年 | 996 |
2021年の904人から3年続けて減り、2025年・2026年で増えました。
外科だけの動きではありません。19の基本領域の合計も、2018年の8,410人から2026年の9,998人に増えています。
ただ、この増加は現場では気づけません。
2025年から2026年の増加は133人です。47都道府県で割ると、1県あたり約2.8人。病院単位まで割れば、ほとんどの施設でゼロです。
※この割り算は乱暴です。専攻医は都市部に集中するため、実態を表す数字ではなく、規模をつかむための計算にすぎません。ただ、都市部に集中するなら、地方ではもっと増えていないことになります。
※2025年・2026年に増えた理由は、この記事では確認していません。
出典:厚生労働省「令和8年度の専攻医採用と令和9年度の専攻医募集について」内「専攻医採用実績数 診療科別一覧表」(2026年9月7日確認)
減っているのは、消化器・一般外科
外科系の中で、減っているのはここだけです。
| 年 | 外科 | 消化器外科 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 2020年 | 13,211 | 5,814 | 19,025 |
| 2022年 | 12,775 | 5,791 | 18,566 |
| 2024年 | 12,341 | 5,564 | 17,905 |
4年で1,120人、5.9%減りました。
同じ4年で医師全体は2.3%増えています。
日本消化器外科学会は、もっと長い期間で同じことを書いています。
厚生労働省の「主たる診療科別にみた医療施設に従事する医師数」のデータから推移をみると、約20年前の2002年と比較して、2022年の消化器・一般外科医師数は2割以上減っていることが分かります
内科系診療科や、同じく外科系である呼吸器外科、心臓血管外科、泌尿器科、産婦人科などは幅はあるものの一律に増加傾向なのに対し、消化器・一般外科は唯一減少している診療科です
「外科医が減っている」という話は、正確には「消化器・一般外科の医師が減っている」でした。
※減った理由については、学会が業務の負担と待遇を挙げています。ただ、それが唯一の原因かどうかまでは分かりません。
※専攻医の増加がこの先の医師数にどう表れるかは分かりません。届け出の側の最新の統計は2024年で、まだ反映される時期ではないからです。
出典:厚生労働省「令和2(2020)年・令和4(2022)年・令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」表4(2026年9月10日確認)、日本消化器外科学会「国民の皆様へ」(2026年3月23日更新、2026年9月10日確認)
人数以上に変わったのは、年齢の構成
総数の減り方より、中身の入れ替わりのほうが大きく動いています。
外科系全体(上の8区分を全部足したもの)の年齢構成を、厚生労働省が2006年から2024年まで載せています。
| 年齢 | 2006年 | 2024年 | 差 |
|---|---|---|---|
| 29歳以下 | 1,451 | 1,377 | −74 |
| 30〜39歳 | 7,242 | 6,024 | −1,218 |
| 40〜49歳 | 7,557 | 6,064 | −1,493 |
| 50〜59歳 | 5,145 | 5,899 | +754 |
| 60〜69歳 | 2,480 | 4,791 | +2,311 |
| 70歳以上 | 2,595 | 2,730 | +135 |
30代と40代が、合わせて2,711人減っています。60代はほぼ倍になりました。
平均年齢も上がり続けています。「外科」と届け出た医師の平均年齢は、2020年53.6歳、2022年53.7歳、2024年53.9歳。同じ時期の医師全体の平均は50.1歳から50.6歳です。
30代と40代の減少は、18年で2,711人。1県あたりにすると約58人です。
専攻医の増加が1県あたり3人だったのと比べると、桁が違います。
実感が拾っていたのは、こちらだったと思います。
出典:厚生労働省「令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」参考統計表8、表4(2026年9月10日確認)。2006年は集計対象の区分が一部異なるため、単純な比較にならない点に注意が必要です
現場の医師が、何を感じているか
日本消化器外科学会が、会員にアンケートを取っています。
後輩に消化器外科医の道を勧めるという回答が38%、自分の子供(など身近な存在)に消化器外科医の道を勧めるという回答がわずか14%
後輩には、4割近くが勧める。
でも、自分の子には1割台しか勧めない。
同じ人が、相手によって答えを変えています。
学会は、その理由をこう書いています。
消化器外科医たちが、「患者さんの生命を救う」という使命感で、昼夜問わず頑張っていることに対して、「何も報われない、認められない」と感じている
「報われない」の中身も、はっきり書いてあります。
いくら病院で多忙を極めても、高度な医療を提供しても、わが国では基本的に診療科によって給与の差はありません
どれだけたくさんの患者さんの生命を救う仕事をし、病院内で実績を上げても、残念ながらほとんどの病院では特別な手当てがある訳ではありません
早朝から出勤して、夜まで手術をして、深夜に緊急の呼び出しがあって、休日も術後の患者さんを診る。
それが評価に反映される仕組みは、いまのところありません。
学会は、こうも書いています。
元来、わが国では「医師は収入をはじめとした待遇のことを言うべきではない」という伝統の下、医師が声を上げることは憚られる雰囲気がありました。ただ、「沈黙は金」では、益々状況は悪くなる一方に思えます
学会が「国民の皆様へ」という形で外に向けて文章を出しているのは、たぶんそういうことだと思います。
このまま行くと、手術を受ける側に何が起きるか
学会は、医師の話では終わらせていません。患者側に何が起きるかまで書いています。
近い将来(早ければ10年以内にも)、地域における消化器外科の診療体制の維持が困難になります
具体的に挙げられているのは、次のことです。
- 胃がんや大腸がんなどの手術が、すぐに行えなくなる
- 腹膜炎や腸閉塞で運ばれても、夜間の救急車の受け入れが難しくなる
- 手術を受けるとしても、数か月待ちになりかねない
- がんは時間が経つと進行するので、本来切除できたはずの手術ができなくなる
これは、医師が大変だという話ではありません。
手術を受ける側に起きることです。
そして学会は、会員数の見通しも出しています。
日本消化器外科学会の新入会員数は、かつて年間1,000名を超えていました。それが1997年に1,000名を割り込み、いまは400〜600名で推移しています。
学会員の年齢分布は、60歳台にピークがあります。
そのため65歳未満の消化器外科医は、10年後に現在の4分の3、20年後に半分になると予測されています。
この「60歳台にピーク」は、厚生労働省の統計で60代がほぼ倍になっていたことと一致します。
学会の会員名簿と、国の統計。別々の資料が、同じ方向を指しています。
出典:日本消化器外科学会「国民の皆様へ」(ワーク・イン・ライフ委員会、2026年3月23日更新、2026年9月10日確認)
「不足」という言葉では、この変化は伝わらない
外科医は、全体としては減っていません。減っているのは消化器・一般外科です。
新しく外科を選ぶ医師は、増えています。ただ1県あたり3人の増加で、現場で気づけるものではありません。
一方で30代と40代は18年で2,711人減り、60代はほぼ倍になりました。
ここ数年、チームの顔ぶれは変わりません。見学に来る先生も、年々少なくなっているように感じます。
それは、うちのチームだけの話ではありませんでした。
僕はずっと「外科医不足」を、人数が足りないという意味だと思っていました。
でも数字が示していたのは、入れ替わりでした。入ってくる人数はあまり変わらずに、中堅が抜けて、上の世代が残る。全体の人数はそれほど動かないまま、中身だけが変わっていく。
これは「不足」という言葉では、たぶん伝わりません。
だから、メディアの報じ方と現場の手応えがずれるのだと思います。
いちばん危ういのは、世代交代の受け皿がないこと
数字を並べていて、もうひとつ気になったことがあります。
いま現場を支えているのは、増えた50代と60代です。
ただ、外科の仕事には体力と目が要ります。年齢が上がれば、細かい操作や長時間の手術が難しくなっていくのが普通です。
学会も、65歳未満を「消化器外科診療の中心をなす」層として書いています。
つまり、いま踏ん張っている層にも、いつか区切りが来ます。
本来なら、その下の30代・40代が引き継ぐはずでした。
でもその層が、18年で2,711人減っています。
世代交代の受け皿がないまま、上の世代のタイムリミットが近づいている。
そう見える構造です。
世代交代がうまくできていない施設も、多いのではないかと思います。
この層がリタイアし始めたら、現場の人手不足は加速度的に進むように感じます。
※加齢が手術に与える影響も、世代交代がうまくいっていない施設がどれくらいあるかも、この記事では数字で確かめていません。ここは僕の見立てです。
まとめ|勧められない、と答える側にいる
自分の子どもに勧めたくない、というアンケート結果が、いまの現状を物語っているように感じます。
僕自身も、やりがいは感じています。
ただ、家族の負担や仕事の負担を考えると、子どもには勧められません。
20年後の外科を想像すると、いま自分が感じている大変さ以上のものになっている可能性が高い。そう思うからです。
学会の予測では、65歳未満の消化器外科医は20年後に半分になります。
いま踏ん張っている50代・60代が抜けたあと、引き継ぐはずの世代は、すでに減っています。
そして、そのころに手術を受ける側にいるのは、いまこれを読んでいる人かもしれません。
これは、医師の待遇の話ではありません。
胃がんや大腸がんの手術がすぐに受けられるかどうか、夜中に運ばれたときに受け入れてもらえるかどうかの話です。
学会も、そう考えて外に向けて文章を出しています。
地域における消化器外科の診療体制維持のために必要な待遇改善(インセンティブの導入など)について、ご理解と後押しをお願いします
現在の消化器外科医を取り巻く状況には、消化器外科医(や学会)の努力で改善できる部分(①業務体制の改善、タスクシフト)と、国民の皆さんのご理解や、世論の後押しがないと進まない部分(②インセンティブの導入)があります
僕にできるのは、いまの数字と、現場で感じていることを書くところまでです。
環境も、待遇も、サポート体制も、少しずつでも良くなって、子どもに勧めたくなる仕事になってほしいと思っています。
そうなったとき、僕の答えも変わります。
この記事の数字は、2026年9月7日・9月10日時点で確認したものです。資料は更新されます。
出典
- 厚生労働省「令和8年度の専攻医採用と令和9年度の専攻医募集について」(令和8年度第1回医道審議会医師分科会医師専門研修部会 資料1、令和8年7月15日)内「専攻医採用実績数 診療科別一覧表」(令和8年3月2日時点 確定値) https://www.mhlw.go.jp/content/10803000/001723771.pdf (2026年9月7日確認)
- 厚生労働省「令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/24/dl/R06_1gaikyo.pdf (2026年9月10日確認。表4「主たる診療科別にみた医療施設に従事する医師数及び平均年齢」、参考統計表8「医療施設従事医師数の年次推移,年齢階級、主たる診療科別」)
- 厚生労働省「令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/22/dl/R04_1gaikyo.pdf (2026年9月10日確認)
- 厚生労働省「令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/20/dl/R02_1gaikyo.pdf (2026年9月10日確認)
- 一般社団法人日本専門医機構「基本領域 講習コード/登録番号」(2021年10月15日版) https://jmsb.or.jp/wp-content/uploads/2021/10/kosyucode_202110.pdf (2026年9月7日確認)
- 日本消化器外科学会「国民の皆様へ」(ワーク・イン・ライフ委員会、2026年3月23日更新) https://www.jsgs.or.jp/news/citizen/1914/ (2026年9月10日確認。2002年比の減少、他診療科との比較、会員数の推移と予測、会員アンケートの結果)
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